中学生向け技術教材の手回し発電ラジオ


【プロフィール】
見明 暢
(ミアケ ノブ)
神戸芸術工科大学プロダクト・インテリアデザイン学科 准教授 時々 プロダクトデザイナー






 
【大きなこだわり】

本製品は「中学生向け技術教材の手回し発電ラジオ」です。

教材ということで、「製品」のデザインと同時に、製作を通した「学び」もデザインしてみようと考えました。
まず、「製品」デザインですが、既存の手回し発電ラジオは、懐中電灯、赤色灯などと組み合わされ、いつか来る非日常の瞬間を、防災袋の中でじっと待つのみの、ザ・災害用品ばかりです。
そこで、今回の提案は、見た目をインテリアに馴染むランプ型にしました。
生活空間に置け、日常生活で使い続けることが同時に災害への備えとなります。

…というのが表向きの話で、実は、勉強してるふりをしながらこっそりとラジオを聴いていた中学生の頃の自分を思い出しながら、堂々と机の上やベッドサイドに置けるラジオがあったら、親の目を盗んでラジオ聴き放題じゃないか!…というのが本音です。


次に「学び」のデザインですが、『自分で作った!』という感情を長く保つため、完成したら見えない箇所をメインの工作箇所にはせず、はんだ付けで製作するLED部品など、完成後に自分で見ることのできる箇所を選びました。
定期的に自分が作った箇所を眺めることで、次の製作や、探究心へつながっていくようにしました。



【小さなこだわり】

小さなこだわりは「造形の考え方」です。
今回は、常に部屋に置いておけるようにするため「ランプ型」という造形コンセプトに決定しました。
一般的にランプは傘部分の「シェード」とそれを支える「台座」の2つの要素に分かれます。
しかし、本製品の筐体は、ラジオの基盤やスピーカー、LED手回し発電用のモーターやハンドルなど、多くのものを包む必要があり、シェードと台座にはっきり分けてしまうと、重量バランスも悪く、中身も全く入りませんでした。
そこで、思い切って、一旦先に必要十分な容積を持ったシンプルで美しい「一つの塊」を準備し、それをラインで切り分けることでランプという印象を作り出すことにしました。
結果的には、全ての内容物を叩き込んだ上で、更に要素が2→1つとなり、シンプル且つ、特徴的なランプとなりました。
また、この塊の上下は丸く角を取っていますが、この大きさは、全体の柔らかさを決定するものであり、多くの候補の中から慎重に選びました。
ここで決めた角の柔らかさは、「柔らかさの基準」となっていて、その他全ての箇所の角の大きさや、デザインの過程で引いたラインの判断基準となっています。



【主催者からの問い】

Q1:内部全体が黄色になった理由を知りたいです。
Q2:塊の上下の柔らかさがどのように「柔らかさの基準」となったのか、具体例を挙げての説明が聞きたいです。


A1:まず、なぜ「黄色」だったのか、ということからご説明します。
2つ理由があります。
1つ目に、造形の核となった塊の形状を考えている際に、ずっと「ゆで卵」が頭に浮かんでいたという単純な理由。
このイメージから、少し黄みがかった白い殻と、美味しそうな黄身色の黄色を選びました。白身は?とは聞かないでください。
2つ目に、今回の商品は売価が三千円程度ということもあり、男女別に分けた多色展開などは難しく、単色でのみの販売だったため、ユニセックス / ニュートラルな色を選ぶ必要があったという理由です。
男女問わず中学生が気に入ってくれる色を検討した結果からも黄色を選んだということです。

次に、内部が全面黄色である理由ですが、よく中を覗いてもらうと…スピーカー部分は白にしています。
卵の殻を割ったら、中から美味しそうな黄身が出てきたようなイメージではありますが、「光と一緒に音が流れ出す」というこの商品ならではの特徴を、ここではこっそりと主張しているのです。


A2:なぜ、この上下の角の丸みを「柔らかさの基準」としたかですが、造形を考えていくにあたり、どのような思考を辿ったかで説明します。
今回辿った「一つの美しい塊を切り分けて部品を作っていく」という造形の手順上、
最初に作った塊の柔らかさの具合は、後の切り分けていく部品たちの柔らかさに影響を及ぼすことになるな…とはじめから考えていました。
それでは、最初の塊の印象に一番影響が大きいのはどこだろう…というと、塊の上下の角の柔らかさの具合だったということです。
上下の角がピンと角張っていれば、機器のような雰囲気になりますし、今回のように、部屋に馴染むようにしたければ、家具に近い穏やかな塊に感じるような柔らかさを与える必要があります。
この上下の角の丸みで全て決まるのだ…これが「柔らかさの基準」になるのだ…と思いながら試行錯誤しました。
ここが決まってしまえば、他の箇所の形状は自動的に決まるため、その後のラインの決定作業は、淡々と進めていくことができました。



【主催者からのコメント】
coming soon ...